借金が減額や棒引きになることがあります。
昔の徳政令みたいな法的な手続があることを知っていますか?

借金の返済に難儀している方だけでなく、みんなの金融リテラシーとして必須の情報です!
任意整理とは「債務整理」の内1つの手段である
借金(債務)の減額や棒引きにする法的な手続には、種々の制度があります。
任意整理、特定調停、民事再生、自己破産です。
特定調停、民事再生、自己破産は裁判所が関与しますが、任意整理の場合には、裁判所は関与しません。
任意整理では当事者同士の話し合いにより返済額を減額できます。
お金を借りた方は、通常、弁護士や司法書士を代理人とします。
また、過払い金返還請求という制度が有ります。

これは、利息制限法での金利の制限以上の利息を支払っていた場合に、この法律の限度の金利で再計算した場合の差額が過払い金となり債権者に返還を求められます!
任意整理4つのメリット
任意整理に至る前は、借金の返済に四苦八苦、督促の電話に戦線恐々という状態だと思われますが、任意整理に着手すると平穏無事な生活が回復するようです。

どんなメリットがあるのでしょうか?
①催促が止まる
当然ですが、毎月の返済が滞るとローン会社などの債権者から、返済の催促の連絡が入ります。
本人が任意整理の手続を開始すると、代理人(弁護士・司法書士)からローン会社(債権者)に対して受任通知が送られます。

ローン会社が受任通知を受領した時点で返済の催促の連絡が止まります。
②利息制限法によって債務額がぐっと減らせる
利息は、利息制限法と出資法により制限されています。利息制限法での上限利息は、借入れの金額により異なりますが、20%となります(下記注1参照)。
出資法での利息の上限は、現在では20%ですが、2010年6月の改正まで29.2%となっていました。改正前の借入れですと利息制限法を越える利息が適用されている可能性がありますので、借入れ条件を調べてみることをお勧めします。
債務額が減額できるのは、この制限(利息制限法)を越える利息を適用されていた部分を考慮して再計算(引き直し計算)し、越えた利息分があれば元本に充当されます。返済総額が債務者の本来支払うべき額(利息制限法の上限)を超えていれば過払いとなり債務者に返還されます。
また、再計算の時点で、従来の残額と再計算後の残額に差があれば、再計算された残額が適用されますので、債務額が減額されます。減額された債務に対して、返済を行なう事となります。
注1)利息制限法の利息
10万円未満 20%
10万円以上100万円未満 18%
100万円以上 15%
③自己破産によるダメージを軽減できる
自己破産の場合には、本人名義の財産は、評価額ベースで金額計算され債務の返済に充てられます。ただ、自己破産で本人の財産がまったく無くなれば、本来の趣旨である生活再建が出来なくなりますので、最低限の財産を残すことができますが、本当に最低限(下記注2参照)です。
自己破産は、裁判所が関与する債務整理ですので、裁判所の決定事項は、官報という政府の広報紙に掲載されますので、自己破産の場合には、親戚や知人などに知られるリスクがあります。
これに対して、任意整理の場合には、返済総額の減額(過払い金が戻る可能性もある)が目的で、これにより返済の負荷を低減させます。できる限りの返済をしつつ生活再建を図りますので、本人名義の財産に手を付けることはありません。
また、裁判所の関与が無いので官報に掲載されることもありませんので、親戚や知人に債務整理の事実を知られることはありません。
注2)自己破産の場合の自己名義財産の限度
預貯金(各項目毎) 20万円以下
生命保険 20万円以下
現金 99万円以下
④資格制限がなく誰でも行なえる
任意整理の交渉は、当事者(債務者の代理人と債権者)同士の協議により返済条件の見直しが行なわれますので、特に債務者に対する資格的な要素はありません。あえて言うならば、“毎月の返済に難儀している”、“借金を整理して生活再建を図りたい”、といった状態にあるということです。
これに対して、自己破産の場合には、裁判所の破産手続き開始決定を受けなければ自己破産はできません。借金の棒引きをするには、それなりの条件があるということで、借金をした方が借金の返済が不能状態にあることを客観的に証明されることが必要です。
その基準(客観的な状態)として、“借金返済に充てる財産がない”、“借金返済に充てる金員の調達が困難”、“借金返済が滞っている”、“継続的かつ客観的に弁済能力がない”、といった条件を満たす必要があります。
任意整理5つのデメリット
借りたものは返す、ということが社会通念上の常識であり、社会が平穏無事に運営される基盤です。そこを、話合いで借金の減額を目論むのですから、それなりのデメリットの存在は予感されます。
①一定期間ローンが一切組めなくなる
任意整理を含む債務整理は、相手側(ローン会社など)からすると金融事故となります。金融事故が発生するとローン会社は、個人信用情報機関に金融事故を登録しますので、新規のローンやクレジットカード発行の審査が不合格となります。また、既存のクレジットカードに関しても、使用不可となります。
②借金を大きく減額させられない
任意整理で減額の話合いを行う上での交渉のキーポイントは、利息にあります。冒頭で述べたように利息は、利息制限法と出資法により規制されていますが、借入時の時期によっては利息制限法の規制値以上の利息となっている可能性があります。
負債の減額の原資は、適用された利息と利息制限法の上限利息の差で生じる差額です。この理由により適用された利息によっては、減額の幅が期待値以下となる可能性があります。
また、貸金業の利息は、制限内でも15%-20%という高い利息ですので、この利息自体も交渉の対象となりますが、難度の高い交渉ですので減額の可能性はあります。
③一定の収入がない場合は活用できない
任意整理を行なうための条件は特に有りません。ですが、交渉期間が半年から1年程度を要し相手との和解条件も、減額されたとは言え概ね3年で返済することになりますので、定期の収入が無いと実質的に活用できないことになります。
④債権者によっては手続がスムーズにいかない場合がある
任意整理は、飽くまで当事者同士の協議ですので、相手(債権者)が話合いや和解の条件を拒絶する公算もあります。特に先方に瑕疵が無い(少ない)場合には、強気の交渉スタイルで話合いに臨む可能性があり、給与の差し押さえを裁判所に申し立てる可能性があります。
⑤手続に時間がかかる
任意整理は、裁判所外の話合いですので、強制力を有する当事者はいません。交渉で借金の減額を勝取るという意図ですので、借入れに関する情報収集・分析や分析結果に基づいた戦略の立案には時間を要します。
また、交渉自体も、有利な状況で交渉に臨むというのではなく、不利な状態でのスタートですので時間を要します。
債務整理共通のデメリット
任意整理を含む債務整理一般に共通するデメリットはあるのでしょうか?安寧秩序のある生活に戻るためには艱難辛苦が待ち受けている気がします。
①費用がかさむ
債務整理は、一般的に代理人(弁護士や司法書士)に交渉や手続を依頼するために、その代理人として活動してもらう費用や成功報酬が発生します。また、申請書には、印紙を貼る必要がありますので印紙に関する費用も必要となりますが、印紙関係は、本人が行なっても必要となる費用です。
②自分で行なえる場合は負担が大きい
債務整理に関する事務や交渉を本人が実施する意思があれば実行可能ですが、種々の調査、手続書類の作成・申請、交渉などの負荷は想像以上の内容です。
代理人費用や成功報酬などの経費は、抑えられますが、時間的・心労的な消耗はおおきなものがあります。
任意整理の手続方法
任意整理は、裁判所外の手続ですので、当事者同士の協議で合意点を見出しますので、本人が直接債権者と協議することは、原則可能です。ですが、本人が債権者に直接掛け合っても相手にされないこと可能性があります。
そこで、専門家である弁護士や司法書士に代理人として交渉してくれるよう依頼します。この手続の流れを見ていきましょう。
①弁護士や司法書士などに任意整理の依頼を行なう
任意整理は、当事者同士の話し合いですが、本人が債権者に話を持ちかけても相手にされません。そこで、代理人として弁護士や認定司法書士に任意整理を依頼します。ただし、認定司法書士が取り扱うことができる範囲は、金額で140万円以下の任意整理です。
②依頼を受けた専門家が「受任通知」を債権者に送る
弁護士や認定司法書士(以下弁護士など)に任意整理の依頼をすると、弁護士などは本人から任意整理の依頼を受けた旨の書状を相手側に送ります。
これが受任通知です。受任通知を受け取った債権者は、本人に対して返済の催促を行う事が禁止されていますので、日々悩まされていた電話がなくなります。また、以降の返済は、中断となります。受任通知にはこのような効果があります。
③債権者に対して「取引履歴開示請求」
受任通知には、本人を特定するための情報(氏名・住所など)や借金に関する契約情報と共に先方の有する債権記録や取引の時系列のデータの提供を要請する取引履歴開示請求が記載されています。
取引開示請求により得られたデータを基に借金の全体像を把握します。
④「利息制限法」によって返済額を割り出す
利息を制限している法律に利息制限法と出資法があります。上で述べたように上限利息は、現在では両法とも20%ですが、改正前(2010年6月)までは、出資法では29.2%が上限で利息制限法の20%と出資法の29.2%の間がグレーゾーン金利と呼ばれていました。
多くの貸金業者はこのグレーゾーン金利を適用していましたが、法改正により利息制限法の上限が利息の限界となりました。
任意整理において、減額の財源となるのは利息制限法の上限を超える利息が適用されているところとなります。この部分を適正な利息で再計算して減額幅を算出します。場合によっては、過払い金として返還される可能性もあります。
⑤返済計画について交渉を行なう
借入れ条件は、ローン会社毎に異なると思われますので、債務の削減計画は取引履歴に基づいて個別に作成することになります。交渉期間は概ね半年から1年で、合意後2年程度(26回の分割)での返済計画を作成します。
交渉は、全て個別交渉となりますので、各社各様の反応になります。代理人の交渉力で合意後の返済時の利息=0%で合意できれば喜色満面となります。
⑥返済計画に基づいて返済を行なう
着実に返済計画に従って、返済していくことが重要です。約束したことを決められた通りに実行して信用の回復と生活再建ができます。計画通りに完済できれば自信と信用が獲得できます。
他の債務整理と任意整理の違い
債務整理には、種々の手続があります。夫々の違い特徴を見ていきましょう。無憂無風の境地を得るのはどの制度でしょうか?
①任意整理と民事再生の違いについて
民事再生という裁判所の関与する債務整理の手続きがあります。5百万以下の債務に対する債務整理の手続きですが、住宅ローンは対象外です。この住宅ローンが対象外ということは、自宅を手放さずに借金の整理ができるということです。また、住宅ローンの返済に難儀している方には不向きな手続きとなります。
裁判所で返済計画が許可されれば原則3年で減額された債務を返済することになりますので、定期的な収入があることが民事再生の適用条件になります。また、裁判所が関与していますので、官報に掲載されます。
②任意整理と自己破産の違いについて
任意整理は、裁判所外の当事者同士の話合いで、自己破産は裁判所の関与する債務整理です。両手法とも債務整理に関する手続ですが、裁判所の関与の有無で、自己破産は官報という政府の広報紙に掲載されますが、任意整理は親戚や知人に知られるリスクは僅かです。
ただ、上で述べたように破産手続き開始決定を受けるには、客観的に債務の返済が不可であることが必要ですので、だれでもが自己破産ができるものではありません。
③任意整理と過払い金返還請求の違いについて
任意整理は借金の返済に難儀して、相手方と交渉して借金の減額を目論むものです。これに対して過払い金返還請求とは、完済した借金に対して、払いすぎた金員を返してもらう手続きです。
前述の利息制限法と出資法の関係で述べたようにグレーゾーンの利息が適用されていた場合には、適正金利で再計算した返済総額と実際に支払った金額に差異がでます。この差異が過払い金となり、過払い金返還請求により受け取ることができます。
まとめ
任意整理は、債務整理のひとつの手続です。裁判所外で行なう当事者同士の協議で債務の減額を目指すものです。
だた、当事者同士ということで本人がローン会社に出向いたところで相手にしてくれる可能性は僅かですので、弁護士や司法書士に代理を依頼することとなります。
また、代理を依頼することで種々の費用が発生しますが、返済総額の減額を考えれば依頼する価値はあります。また、裁判所外の手続ですので、官報に掲載されることもありませんので、他人に知られるリスクも僅かです。
ただ、任意整理を含む債務整理を行なうとローン会社側から見ると金融事故となりますので、個人信用情報機関に債務整理の情報が残ります。クレジットカードの停止や新規のローン契約に支障をきたしますので、充分検討してから任意整理に踏み切ってください。