ワークライフバランスの提唱者である小室淑恵さんが内閣府「仕事と生活の調和連携推進・評価部会委員」となったのが2008年。
そこから12年経った2020年ではニュースでも、多くの企業で残業抑制や有給休暇の取得義務化などが実施されていることをよく耳にします。
もちろん、働き手である私たちにとって、ワークライフバランスが推進されることは大変嬉しいことですよね。
しかし、なぜここまで国・自治体・企業などは必死になって取り組んでいるのでしょうか。
また、実際にどのような取り組みをしているのでしょうか。

今後の働き方を見直したいと考えている人に向けて、ワークライフバランスを実現するコツ・働きやすい企業の見分け方なども解説しています。
ぜひ参考にして下さい!
ワークライフバランスとは「仕事と生活の調和」
そもそもワークライフバランスとは、一体何なのでしょうか。
厚生労働省によると、ワークライフバランスとは「仕事と生活の調和」と定義されています。

私たちは、ワークライフバランスを実現することで「意欲を持って働きながら、豊かさを実感して暮らせるようになる」のです。
人によって捉え方が異なる
ワークライフバランスは「仕事と生活の調和」と定義されていますが、人によって調和の定義は異なります。
- ハードに仕事をしてこそ、休みが楽しめる
- 仕事はそこそこにして、休みをがっつり楽しみたい
- 仕事もプライベートもそこそこでいい
などなど、理想的な働き方は人それぞれ。
ワークライフバランスとはそもそも「仕事とプライベートを◯:◯にする」と決められたものではないのです。

各々がその時の状況によって「働きやすいと感じる働き方をする」のがワークライフバランスの実現と言えますね!
ワークライフバランスの現状
では、どれほどの人がワークライフバランスを実現しているのでしょうか。
2018年に行われたの調査によると、男性では約60%・女性では約50%がワークライフバランスの理想と現実にギャップがあると答えています。
またの調査によると、働き方の見直しを経営目標に上げるほど積極的に取り組んでいる企業は全体の40%ほどしかないのが現状。

しかし、経営目標にするか検討中の企業が約40%を占めていることを踏まえると、全体の約80%の企業は従業員のワークライフバランスについて気にかけているとも言えるでしょう。
日本でワークライフバランスの重要性が叫ばれているのは働く世代の人口が減っているから
2019年に発表されたIMDの世界競争力ランキングでは、日本は30位。前年から5つもランクを落としています。
そんな状況にも関わらず、なぜここまで「ワークライフバランスの実現」が叫ばれているのでしょうか。

日本が直面している人口構造をもとに解説します。
日本は人口オーナス期に突入
1990年代にハーバード大学のデービッド・ブルーム教授は「人口ボーナス期・人口オーナス期」という考えを提唱しました。
人口オーナス期とは人口構造が国の経済の足かせ(オーナス)となっている状況。
高齢者の割合が増え、少ない若者で多くの高齢者を支える構造となっています。そのため企業は人手不足に陥り、経済も成長しにくくなります。
一方で人口ボーナス期とは若者がたくさんいて、高齢者が少ない人口構造が特徴。
安い労働力を武器に世界中の仕事を受注して大量にこなして儲けることが可能です。
人口に占める高齢者の割合が低いので社会保障費がかさばらず、余った利益をインフラ投資に回して経済が成長していきます。
ちなみに、日本は1990年代半ばに人口ボーナス期が終了。現在では少子高齢化が叫ばれているように、人口オーナス期に突入しています。
人口ボーナス期に求められる働き方
人口ボーナス期と人口オーナス期、これら2つの人口構造では、企業が実施すべき人材戦略は異なります。
まず、人口ボーナス期の国における企業の戦略は以下。
- なるべく男性に働いてもらう
→重工業が経済を支えており、力が必要となる仕事が多いため。 - 同じ条件の人材に働いてもらう
→市場は均一なモノをたくさん提供することにニーズがあり、製品を効率的に生産したいため。 - なるべく長時間働いてもらう
→市場はモノやサービスに飢えており、作れば作るだけ売れるため。
人口オーナス期における「働き方」
一方で、人口オーナス期の国における企業の戦略は以下。
- なるべく男女ともに働いてもらう
→頭脳労働の比率が高く、且つ労働人口が少なく採用が難しいため。 - なるべく違う条件の人を揃える
→市場は均一なモノ・サービスに飽きているので、さまざまな知識や考え方をビジネスに活かす必要があるため。 - なるべく短時間で働いてもらう
→頭脳労働が増え、人件費が高騰するため。
このように人口オーナス期に突入した日本では、企業は社員に求める働き方を変えないといけません。
実際、これに気づいている企業では「男女問わず」「さまざまな条件の人」を採用していますし、働く時間も見直されています。結果的にそういった企業に人材が集まるので、対応が遅れている企業は今後ますます採用難に陥ってしまうでしょう。
こうした時代背景から、日本ではワークライフバランスの重要性が叫ばれているのです。
少子化を防ぐため
人口オーナス期に突入した日本では少子化問題が深刻です。
実際、人口動態統計によると平成元年の出生数は約120万人でしたが、令和元年には約86万人に減少しています。
また、初婚年齢も平成元年には男性28.5歳・女性25.8歳だったのが、令和元年には男性29.4歳・女性27.6歳と、ますます遅くなっています。
少子高齢化が進むと労働人口が減ってしまい、ますます経済の発展が難しくなるでしょう。
こうした背景から政府は現状に危機感を感じ、仕事だけでなくプライベートの時間を確保することが得策だと踏み切ったのです。
実際、以前までの36協定では月45時間・年360時間の残業が認められていましたが、それを無視しても特に罰則などはないという状況でした。しかし、2019年4月には大手企業、2020年4月には中小企業にも罰則の規定が追加されました。
このように、政府も本腰を入れて働き方の見直しに努めているのです。
ワークライフバランスを取り入れた働き方の例
ワークライフバランスを取り入れた働き方には、どのようなものがあるのでしょうか。以下で代表的な例を紹介します。
働き方例1:残業抑制
2019年に放送された「わたし定時に帰ります」というドラマが平均視聴率10%近くを叩き出したことからも、世の中が「働く時間」に興味関心を抱いていることがわかりますよね。
実際エン・ジャパンの調査によると、70%が残業削減・撤廃に「賛成」
理由としては以下のことが挙げられました。
- 趣味など自分のための時間を持つことができる(60%)
- 規制があることで業務効率が上がる(57%)
- 周りに遠慮せず帰れる風土になる(54%)
残業を抑制することで自分の時間を持つことができるので、それがワークライフバランスに繋がると考える人が多いのでしょう。
働き方例2:フレックスタイム
フレックスタイムとは、従業員が始業・終業時間を自由に決められる制度のことです。
- 朝早く起きなくて済む
- 通勤ラッシュを避けられる
- 子育てやプライベートと時間を調整しやすい
などなど、さまざまなメリットがあります。
特に通勤ラッシュの満員電車に関しては、戦場よりもストレスを感じてしまうというもあるぐらいなので、フレックスタイムによってそれを避けられるのはかなりのメリットでしょう。
しかし、2018年に実施された厚生労働省の調査によると、フレックスタイムを実施しているのは全企業の5.6%のみ。
顧客の都合に合わせる必要がある場合、業務の特性上難しいこともあるようです。
働き方例3:週休3日制
週休2日制・完全週休2日制にとどまらず、週休3日制を導入する企業も増えてきました。
実際、平成28年に実施された東京都産業労働局の「労働時間管理に関する実態調査」によると、半数以上の人が週休3日制を希望しており、需要が高いことがわかります。
実例としては、まつげエクステサロンのBlancが2016年に週休3日制度の導入をスタート。一般的に激務と言われる美容業界の中でも働きやすい体制を整えてたことで注目を集めました。
その他にも、UNIQLO・ヤフー・佐川急便など、様々な業界に属する企業も続々と導入しています。
働き方例4:育児休業・育児休暇・時短勤務
育児休業とは、子育てのために取得する休業のこと。
1歳未満の子供を持つ人が対象で、従業員が申請すると企業は断ることができません。
一方、育児休暇とは各企業が独自に定めるもの。2018年ののデータによると、育休取得率は女性82.2%、男性6.16%。男性についてはまだまだ浸透していないのが現状です。
また、時短勤務は法律で定められているものと企業が独自に定めるものがあり、前者では子供が3歳になるまでは1日6時間の労働が認められています。
働き方例5:リモートワーク
リモートワークとは、オフィスから離れた場所で行う勤務形態のこと。主に、カフェ・自宅・サテライトオフィスなどで仕事をすることになります。
2020年に流行した新型コロナウイルスの影響から外出自粛宣言が発令され、実際にリモートワークを経験した人もいるでしょう。
出社する必要がなく、上司・同僚などと顔を合わせる必要もないので、ストレスフリーに働けると感じる人も多いです。通勤時間がなくなり、時間を有効活用できるようになったという声もあるので、今後ますます導入する企業が増えてくることが予想されます。
ワークライフバランスを推進している企業の見分け方
多くの企業が働きやすい制度を導入していますが、実際に転職をする際にはどのような視点で企業を選んだらよいのか迷っている人もいるでしょう。
そんな方には以下2つの観点で企業を見ることをおすすめします。
多様な人材を採用している
性別・年齢・国籍問わず、多様な人を採用している会社は、それだけ受け入れる体制が整っているということ。子育て中の女性が多いことも1つの指標となるでしょう。
先述したように人口オーナス期の国では、企業は多様な人材を雇用することで合理的な経営を行うことができます。
つまり、それに気づいている企業は賢明で将来性も高く、また今後も働き方の制度をしっかりと整えていく姿勢もあるはず。
社員訪問や面接の際に、どのような人が働いているのか具体的に聞いてみるとよいでしょう。
積極的に新しいことに取り組んでいる
リモートワークやチャットツールの導入など、積極的に新しいことに取り組んでいる会社だとワークライフバランスも実現しやすくなります。
なぜならワークライフバランスを実現するには、IT技術を積極的に導入して業務を効率化する必要があるからです。
なかには、古い慣習・考え方に縛られて新しいことに取り組まない企業もあるでしょう。しかし、そういった企業は移り変わりの激しい今後の社会において淘汰されやすくなります。そうなると業績も落ち込み、労働環境が悪化し、賃金も低下してしまうでしょう。
転職活動で企業を探す際には「新しいことに積極的に取り組んでいるのか」と、具体的に社員に聞いてみるのがおすすめです。
企業のワークライフバランスへの取り組み事例
ここからは、企業のワークライフバランスに対する取り組み事例をより具体的に紹介します。
あなた自身が「自分に合った働き方」を見つけるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
株式会社タニタ
体重計などで知られるタニタですが、じつは革新的な働き方を導入していることで有名です。
ワークライフバランスと聞くと「残業削減」ばかりに目が行きますが、谷田千里社長はこれに疑問を覚えました。本当のワークライフバランスとは「働きたい人が思う存分働けて、適正な報酬を得ること」なのではないかと。
そういった背景から、社員の個人事業主化という斬新な制度を作成しました。この制度によって、希望する社員は退職して業務委託として契約することが可能になります。業務委託は正社員ではないため、働き方や勤務時間に縛られない。
つまり、自分の好きなときに好きなだけ働けるということです。基本業務以外のことは追加業務として発注されるので、成果報酬として別途受け取ることも可能。
この制度によって従業員の約1割が個人事業主となり、働きやすい環境を手に入れたのです。
サイボウズ株式会社
「100人いたら100通りの働き方がある」と提唱するサイボウズ。法人向けのソフトウェア・クラウドサービスを提供しています。最近では働きやすい企業として有名になりましたが、かつては離職率28%の企業でした。
そんなサイボウズが取り組んだのは主に以下のこと。
- 育児・介護休暇制度
→最長6年間の育児・介護休暇制度。妊娠が判明した際から取得できる「産前休暇」も導入。 - 子連れ出勤制度
→家庭の事情に合わせて、チームの生産性を下げないなどのルールのもと運用。 - 働き方宣言制度
→育児・介護・通学・副業などに合わせて好きな時間・場所で働くことが可能。 - 育自分休暇制度
→退職する人を対象に、最長6年間以内であれば復職を保証するもの。
これらの施策を通して、2005年には28%だった退職率が現在では4%にまで抑えることができています。
また、サイボウズ式というメディアも運営しており、さまざまな企業や人の働き方を取り上げています。興味のある方は確認してみてください。
株式会社東邦銀行
東邦銀行は福島県に本店を置く地方銀行。一般的には「固い」と言われている銀行の中でも、積極的に働き方を見直している会社なのです。
- 副業の許可
- テレワーク
- フレックスタイム
- 朝型(午前6時半〜)勤務
- イクまご休暇(孫を育てる育児休暇のこと)
上記のように、他の銀行ではなかなか実現できていない働き方を導入してきました。
このような取り組みから、2019年には厚生労働省「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」「キラリと光る取り組み賞(職業安定局長賞)」を受賞しました。
職場環境の整備・多様な人材の活躍支援を進める東邦銀行。古い慣習が蔓延している金融業界に風穴を開ける存在となるかもしれません。
株式会社丸井
アパレル業界で有名な丸井もワークライフバランスの実現に積極的に取り組んでいます。
特に男性の育休制度が整っているのが特徴で、取得率はなんと109%(2017年)
その結果、2019年には日経DUAL「共働き子育てしやすい企業」のグランプリに輝きました。
日本全体で女性の育休は普及してきていますが、男性の育休は先述したように6.16%とまだ普及していません。そんな状況の中、丸井は人事部に「多様性推進課」を設置し、さまざまなことに取り組んできました。
- 社員のスケジュールの見える化
- 最大50通りの就業パターンを用意
- 育児を事由としたエリア限定勤務制度の導入
- 育児をしながら活躍している先輩社員との交流会の開催
男性の育児参加によって出生率も上がると考えられるので、このような取り組みをする企業が増えることは、日本の将来を考えると大変よいことだといえるでしょう。
株式会社シップス
残業を抑制した成功事例として、アパレルブランド「SHIPS」を運営する株式会社シップスが挙げられます。シップスは、働きやすい魅力的なショップでなければスタッフが定着しないといった危機感から、働き方を見直し始めました。
具体的な施策としては、約80名の店長を東西に分け、それぞれ一同に会し、月に1度、全4回の店長研修を実施。ワークライフバランスの第一人者である小室淑恵さんが提唱する「カエル会議(※)」の手法を店長たちに学んでもらい、それを現場に取り入れました。
さっそく各店舗でスタッフが働きづらいと感じている点を議論したところ「店長とスタッフのコミュニケーション不足」「店長のマネジメント不足」が原因の残業が圧倒的に多いと判明しました。
例えばスタッフが店舗で接客をしていたら、店長から倉庫を整理してと言われる。時間が経って客が増えたら、今度は接客をしてと言われる。中途半端に倉庫整理をしたので、どこまでやったかわからなくなってしまうという問題がありました。
そこで、来店数は曜日や時間帯である程度推測できるので、いつ・何人店舗に配置するかを考えて、店長が「朝決めたら配置は急に変更しない」ことをスタッフに約束したところ、接客の質も上がり、倉庫の整理ミスもなくなったそうです。
結果的に、残業を25%削減・売上5億円アップを実現させました。
(※)カエル会議とは仕事のやり方を「変える」早く「帰る」人生を「変える」の3つの意味が込められており、メンバー全員で合意をとりながらチームのなりたい姿を描き、現状からどうすれば抜け出して辿り着くことができるのか?を考えるもののことです。
株式会社お佛壇のやまき
静岡県内で6つの仏具店を展開している株式会社お佛壇のやまき。
地方の中小企業ながら、日本生産性本部とワークライフバランス推進会議の主催するワークライフバランス大賞の大賞を受賞しています。
浅野秀浩社長は、仏具という家族を思う人に対して接客をする仕事だからこそ、従業員が家族を大切にする時間が必要であると考え、社内でワークライフバランスを推進することを決めました。
実際に取り組まれたのは以下のような施策。
- できるだけ連休にするようなシフトを組む
- 有給休暇を9割以上取得できるように業務を見直す
- 休暇取得を給与評価にいれる
- 業務のマニュアル化
- 有給休暇の半日取得を可能にする
- 家族行事で5日以上の連休を取った場合、3〜5万円ほどの手当を支給
こういった様々な工夫を凝らした結果、施策導入初期の2008年と比較すると、2014年の売上はなんと40%も増加。
ただ労働時間が減ったのではなく、業務がしっかりと効率化されたことがわかります。
ワークライフバランスを実現するコツ
制度が整った会社に転職したいと思いつつも、事情があってすぐには転職をするのが難しいという人もいるでしょう。
そんな方に向けて、今いる会社でもワークライフバランスが実現できるコツを紹介します。
今日からでも実践できる具体的なアクションを紹介しているので、こちらも参考にしてみてください。
コツ1:業務を効率化する
今やっている仕事は果たして必要なものなのか、一度冷静になって考えてみましょう。
例えば定期的に開いている会議。毎週集まることだけが目的となっていませんか?形だけで中身のない会議になっているのであれば、今すぐ辞めましょう。
もし辞めることが難しいのであれば「時間を短くする」「参加者を減らす」「集まらずにテレビ会議にする」など、代案はたくさんあります。
また、単純作業も今すぐ見直しましょう。例えばスプレッドシートで行う作業であればGAS(Google Apps Script)を勉強して自動化してみるなど、工夫を凝らせばいくらでも効率化することができます。
繰返し行う業務は「テンプレート化」するのがおすすめです。特にメールやチャットでよく打つ文字は辞書登録をすると非常に便利。例えば「いつも」と入力すると「いつもお世話になっております。株式会社◯◯の……」と一発で変換できるので、かなり時間短縮につながっています。
コツ2:属人化した業務をなくす
チーム内の特定の人しかできない仕事はありませんか?また、あなたもそのような仕事を抱えていませんか?
属人化した業務が増えると担当者がいなくなるだけで仕事が回らなくなります。
例えば重要な業務を担っているAさんが「親の介護が理由で来月から時短勤務になる」と言ったら、大変ですよね。日頃から、そういった事態にも対応できる仕組みづくりをする必要があります。
なかには「この仕事は自分にしかできない。まだ部下には任せられないよ」と言う人もいるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。部下に経験をさせてできるようにさせる、そういった育成も上司の仕事の1つです。
こういった属人化した業務をなくすことで、欠員が出ても回るチームとなります。そうすれば多様な働き方も徐々に可能になってくるでしょう。
自分が担当した業務を「マニュアル化」するのがおすすめです。急に誰かに仕事を引き継ぐことになっても、マニュアルさえあればスムーズに依頼することができます。また作成する際は業務手順はもちろん、気をつけたほうがよい点も記載すると後任者も業務を行いやすくなるので、ぜひ実践してみてください。
コツ3:仕事の段取りをつける
上司や同僚から仕事を頼まれたら、今やっているものを中断してまでも、優先して対応してしまう人もいるでしょう。
しかし依頼されたものを終えて、いざ続きから仕事を始めても「どこまでやったか」「何を考えていたか」忘れてしまいがち。結果的に生産性が下がってしまいます。
なので、上司や同僚から仕事を頼まれたら「それはいつまでに必要なものですか?」「今抱えているAというタスクとどちらが優先度が高いですか?」と聞くのがおすすめ。
今ある業務を止めてまでやるべきか、一度聞いてから作業に取り組んだ方がよいでしょう。
仕事を引き受けた際は、細かいところまで質問や相談をするのがおすすめです。間違った方向性で仕事を進めて、後でやり直しになるのは非効率です。疑問点・不明点は早めに解消しましょう。
コツ4:1日のスケジュールを立てる
毎朝チーム内でスケジュールやタスクの共有をするのも大切なこと。
誰が忙しくて・誰が手が空いているのかを共有することで、チーム全体でタスクの偏りを減らすことが可能です。
小室淑恵さんも著書にて、朝メール・夜メールを用いて働き方をチーム全体で確認することが重要であると述べています。
朝メールとは1日を15分〜30分単位で予定と時間をセットで書き出し上司や同僚全員にメールで共有すること。夜メールは退社時に1日の実績を書いて振り返るもののこと。
実践してみると「急ぐ必要はないのについ特定の業務を優先して取り組んでしまう」「重要な仕事を午後に入れているが、お客様からの問い合わせで中断することが多い」など、自身の仕事の優先順位付けや時間の使い方の癖を客観的に捉えることができるのでおすすめです。
「人を動かす」の著書で有名なデール・カーネギーも「15分ごとに予定をたてて記録するべきだ」と述べており、「もしドラ」で有名なピーター・F・ドラッガーも「時間管理の基本は時間を記録し、管理し、まとめるの3段階だ」と主張しています。
時間を制するものは働き方も制すると言っても過言ではありません。あなたも今日から時間を意識して働いてみませんか。
Googleカレンダーなどを使ってスケジュール管理を行うのがおすすめです。抱えている仕事を可視化することで「今日はあと何を終わらせればよいのか」が把握できるため、非常に便利。また、スケジュール化する際に業務の優先度も考慮するため、結果的に効率よく仕事を終わらせることができています。
コツ5:帰れる雰囲気作りをする
育児や介護などの事情を抱えている人は、普段からある程度プライベートのことを職場で話しておくとよいでしょう。
そうすれば周囲の理解も得られるので、急に早退になっても受け入れやすく、フォロー体制が取りやすいのです。
もちろん、その際は当然という顔をするのではなく「みなさんの協力のおかげで今日はお先に失礼させていただきます」と、感謝の気持ちを忘れずに伝えましょう。
先に帰る同僚を笑顔で見送るのがおすすめです。「もう帰るの?」という顔をしてしまうと、自分が早く帰りたいときもそのような視線が集まってしまいます。自分自身が率先して笑顔で見送ることで、チーム全体も定時に帰れる雰囲気になります。
海外ではワークライフバランスはどのように実現されている?
ここまでで、日本国内での「ワークライフバランス」の浸透度については解説しました。しかし、海外では一体どうなっているのか、気になる人もいるでしょう。
OECD(経済協力開発機構)が発表した世界のワークライフバランスの調査をもとに紹介します。
ワークライフバランスを実現している国
ワークライフバランスが実現できている上位5カ国はこちら。
- 1位:オランダ
- 2位:イタリア
- 3位:デンマーク
- 4位:スペイン
- 5位:フランス
西洋の国が多いですね。今回は上位2カ国について解説します。
1位:オランダ
オランダでは「ワークシェアリング」という考え方が普及しています。ワークシェアリングとは、1人当たりの労働時間を減らして仕事を分け合うこと。
そのため、時短勤務やパートタイムなど、柔軟な働き方が普及しているのです。特にパートタイム勤務の割合が多く、2016年の調査によると男女合わせて48.5%(内訳:男性 26.0%,女性 74.7%)にも上ります。
パートタイム勤務でも時給・社会保障・雇用期間・昇進などがフルタイム労働者と変わらず、格差が非常に少ないのが要因となっているのでしょう。
OECDの調査結果によると、オランダでは週50時間以上働く従業員の割合は0.4%で、これはOECD加盟国平均の11%に比べると非常に低い値です。また、女性の社会進出も進んでおり、平均の57.5%よりもはるかに高い69.9%となります。
ちなみにユニセフが2013年に発表した「先進国における子供の幸福度」のランキングでも世界1位となっています。
このように、仕事とプライベートを両立できる環境だからこそ、子供も幸せに育つのでしょう。
2位:イタリア
日本と同じ人口オーナス期に突入しているイタリア。じつは高齢人口率が日本に次いで、世界第2位であるのをご存じでしょうか。
そんなイタリアですが、陽気な人が多いことからも、かなり働きやすい国として知られています。
残業はほぼしないという国民性、ランチタイムに2時間ほど費やす風潮、年28日間与えられる有給休暇、さらにはポンテという休日に挟まれた平日を休みにする制度など、とにかく「休む」ための環境が整えられています。
また「労働生産性の国際比較 2018」によると、イタリアの労働生産性は36カ国のうち11位(日本は21位)と、そこまで低くはありません。
休むときはしっかりと休み、働くときはしっかりと働く。先述した人口オーナス期の働き方に適したスタイルをとっているので、日本もお手本にしたいですね。
ワークライフバランスを実現できていない国
一方で、ワークライフバランスを実現できていない国はこちら。
- ワースト1位:コロンビア
- ワースト2位:メキシコ
- ワースト3位:トルコ
- ワースト4位:韓国
- ワースト5位:日本
日本は5位に選ばれてしまいました。今回は上位2カ国を紹介します。
ワースト1位:コロンビア
コロンビアは失業率が高く、国際労働財団によると非正規雇用の割合も2017年で65%とかなり高くなっています。
また労働組合組織率は4%と低く、過去には銃撃事件も起きていることから、発足・加入しづらい状況。労働者が雇用者に対して権利を強く主張できる風潮ではないのです。
また最低賃金も低く、GLOBE NOTEによると32カ国中30位。労働者にとっては、なかなか厳しい環境となっています。
ワースト2位:メキシコ
メキシコの労働時間はGLOBE NOTEによると世界主要国で最も長く、なんと年間2,148時間。ちなみに世界平均は1,734時間です。
これだけ過労が叫ばれている日本でさえ1,680時間であることを考えると、相当過酷な労働環境であると言えるでしょう。
実際、メキシコでは昼間勤務の場合、週48時間の労働が認められているので実質1日8時間×6日で働いている人も多いです。
休みが1日となってしまうのでなかなかプライベートとの両立も難しいのが現実。
しかし、メキシコ人は仕事に対するやる気が高く、ケネクサの調査によると28カ国中第3位。一方、日本は最下位。また、2020年に発表された世界幸福度ランキングでも156カ国中24位(日本は62位)です。
このことから、メキシコ人は仕事に価値を見出して幸せを感じていることがわかります。
長時間労働は今の日本とはそぐわない働き方ですが、仕事に何らかの価値を見出すことは私たちも参考にしたいですね。
ワークライフバランスに関するよくある疑問と回答
日本で推進されるワークライフバランスですが、中には疑問を感じている人もいるでしょう。
ここでは、主な疑問とその回答を、小室淑恵さんの本を参考に紹介したいと思います。
Question①:若手社員はもっと働きたいと言っているのではないか
Answer:若手社員は何を求めていますか?「もっと長時間働きたい」と言っているのでしょうか。
おそらく答えは「No」ですよね。長時間働きたいのではなく「もっと成長したい」と言っているのです。
たしかに最近は残業規制が厳しくなり、年配の層が若手だった頃に比べると働く量は少なくなっているでしょう。しかし、かつて多くの人が時間をかけて頑張った仕事の大半は、今やIT技術で簡単に処理できるようになりました。
そんな中、今の若手が向き合うべきことは目の前の仕事なのでしょうか。先述したように、日本は人口オーナス期に突入しています。市場は均一な商品・サービスを嫌う傾向にあり、革新的なものを求めるようになっているのです。
そこで、今後の日本ではビジネスをしていくうえで「自分自信も消費者であること」が重要になってきます。
世の中の人が何を不便と感じて、何を求めているのか、その感覚を研ぎ澄ますためにも、プライベートの時間を使うように指導してみてはいかがでしょうか。
Question②:残業は家計のため。妻も早く帰宅してほしいと思っていないのではないか
Answer:これは家庭によって事情が異なるので一概には答えられません。しかし、面白い調査結果があるので、それを共有したいと思います。
シカゴ大学の山口教授の調査によると、就業時間を減らして月収10万円が減ったと仮定し、同じ結婚満足度を維持するにはどの程度の夫の家事育児参加が必要になるかを割り出しました。すると「夫婦の会話時間が1日平均15分増加する」または「夫の育児分担割合が3%増加する」だけで補えることが分かったのです。
このことから家庭を円満に保ちたいのであれば、しっかりと家事・育児を手伝うことが大切であることがわかります。
残業時間を減らして早く家に帰ってみてはいかがでしょうか。
まとめ
みなさんは、ワークライフバランスと聞いて「働き方」ばかりに焦点を当てていませんでしたか?実際に筆者である私も、執筆前はそうでした。
しかし、ワークライフバランスの定義は「仕事と生活の調和」です。生活を充実させることも大切なのだと、今回の執筆を通して強く感じています。
また、自分にとって理想の働き方とは一体なんなのかと、改めて考えるようになりました。
- どんな仕事をしたらやりがいを感じるのか
- どんな働き方が自分に合っているのか
- どんな生活スタイルに幸せを感じるのか
ワークライフバランスの実現には、これらを言語化することが大切です。みなさんも一度、じっくりと考えてみてください。
一人ひとりがワークライフバランスについてしっかりと考えることで、社会全体としても「さまざまな働き方」に対する理解が広まるでしょう。